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ちりぬるをわか

日々のちょっとした事。で、いろんなことがあったりなかったり。

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「夜のピクニック」 恩田陸 新潮社 2004年7月発行

文庫本裏表紙より:高校生活最後を飾るイベント「歩行祭」。それは全校生徒が夜を徹して80キロ歩き通すという、北高の伝統行事だった。甲田貴子は密かな誓いを胸に抱いて、歩行祭にのぞんだ。三年間、誰にも言えなかった秘密を清算するためにーー。学校生活の思い出や卒業後の夢などを語らいつつ、親友たちと歩きながらも、貴子だけは、小さな賭けに胸を焦がしていた。
本屋大賞を受賞した永遠の青春小説。

感想:たかだか一晩の出来事を延々と書き綴っているのだけど、その中に登場人物の会話や思いがそれまでの色々なことを浮かび上がらせてくれる不思議な時間の物語。

こういった高校生活を送ったこともないので、なんとなく羨ましような気もする。この物語の中に貴子の友人で、アメリカで育った杏奈のことが出てくる。杏奈はすでにアメリカの大学へ入るために高校を去ってるが、この話のキーになる人物。

そんな杏奈のことを「あちこち細切れに世界を渡り歩いてきただけに、逆に日本的なシステムの高校の、一種理不尽にすら思える因習めいた伝説(歩行祭のこと)に、憧れを持っていたのだろう。」と書かれているのだけどその通りだと思ってしまった。

「みんなで、夜歩く。たったそれだけのことなのにね。
 どうして、それだけのことが、こんなに特別なんだろうね。」

その言葉通りこの歩行祭も特別なものになっていくわけなのだが、読み終えてみて、ああ、青春ってこんなのかな〜と思える特別さだと感じた。

色々と良い言葉がでてくるので二箇所書き写しておく。

「時間の感覚というのは、本当に不思議だ。
あとで振り返ると一瞬なのに、その時はこんなにも長い。1メートル歩くだけでも泣きたくなるのに、あんなに長い距離の移動が全部繋がっていて、同じ一分一秒の連続だったということが信じられない。
 それはひょっとするとこの1日だけではないのかもしれない。
 濃密であっというまだったこの一年へ、ついこのあいだ入ったばかりのような気がする高校生活や、もしかして、この先の一生だって、そんな「信じられない」ことの繰り返しなのかもしれない。
 恐らく、何年も先になって、やはr同じように呟くのだ。
 なぜ振り返った時には一瞬なのだろう。あの歳月が、本当に同じ1分1秒毎に、全て連続していたなんて、どうして信じられるのだろうか、と。」


「貴子は・・・
 体を動かすのは好きではないが、歩くのは好きだった。こんなふうに、高低差がなくて景色のよい場所をのんびり歩いているのは気持ちがいい。頭が空っぽになって、いろいろな記憶や感情が浮かんでくるのを繋ぎとめずほったらかしていると、心が解放されてどこまでも拡散しているような気がする。
中略
 日常生活は、意外に細々としたスケジュールに区切られていて、雑念が入らないようになっている。チャイムが鳴り、移動する。バスに乗り、降りる。葉を磨く。食事をする。どれも慣れてしまえば、深く考えることなく反射的にできる。
 むしろ、長時間連続して思考し続ける機会を、意識的に排除するようになっているのだろう。そうでないと、己の生活に疑問を感じてしまうし、いったん着物を感じるたら人は前に進めない。だから、時間をこきざみにして、さまざまな儀式を詰め込んでおくのだ。そうすれば、常に意識は小刻みに切り替えられて、無駄な思考の入り込む隙間がなくなる。」

以上
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