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ちりぬるをわか

日々のちょっとした事。で、いろんなことがあったりなかったり。

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「愛なき世界」 三浦しをん 中央公論社 2018年9月発行

帯より:洋食屋見習い・藤丸が恋した本村は、三度の飯より“植物“の研究が好き。見た目が殺し屋の教授、サボテンを巨大化させる後輩男子など、変わり者たちに囲まれながら、藤丸の恋は、本村の研究は成就するのか? 世界の隅っこが輝き出す傑作長編。

感想は長くなりすぎるので割愛(笑):物語の舞台はT大学の生物科学部研究室とそのT大赤門前にある洋食店。植物の研究で博士を目指す本村と料理の道を進む藤丸を中心として研究室での出来事や、本村の研究の行方などが描かれる。
大学の研究室というのがこんなものなのか、というのも垣間見ることができるのも面白いし、そこに集う人たちの変人ぶり?も面白い。

気になった文章の書き抜き:P104 ケヤキを見た瞬間の本村の衝動。
「どうしてケヤキはこういう形で枝をのばすの。どうして植物によって歯の形やつきかたが違うの。知りたい、知りたい、知りたい。一体どういう仕組みで、植物は、私たちは、自らの形を決定づけ生命活動をしているの。」

この後本村は大学院へ進もうと決意し、植物の研究に携わることになる。でもこの思いはすっごくよくわかるなあ。

P340 本村が家にある鉢植えを見て思う。
「不思議だなあと思う。言語を持たず、気温や季節という概念すらないのに、植物はちゃんと春を知っている。温度計や日記帳を駆使せずとも『これは小春日和ではなく、本物の春だ。そろそろ例年とおり、活発に生命活動をする時期が来た』と判断し記憶できる。
翻ってみて人間は脳と言語に捕らわれすぎているのかもしれない。苦悩も喜びも全て脳が生みだすもので、それに振りまわされるのも人間だからこその醍醐味だろうけど、見方を変えれば脳の虜囚とも言える。鉢植えの植物よりも、実は狭い範囲でしか世界を認識出来ない、不自由な存在。」

脳も意識もない植物は愛のない世界に生きてるという本村だけど、最後に藤丸が言う。

P444 「・・・一年近く考えて、本村さんや研究室のひとたちのことを見てて、なんとなくわかった気がするんです。本村さんは、愛のない世界を生きる植物のことをどうしても知りたいんだ。だからこんなに情念を持って研究するんだ、って」
「その情熱を、知りたい気持ちを『愛」って言うんじゃないすか? 植物のことを知りたいと願う本村さんも、この教室にいる人たちから知りたいと願われている植物も、みんなおんなじだ。同じよいうに、愛ある世界を生きている。俺はそう思ったっすっけど、違うっすか?」

本村はこの言葉に「ありがとうございます。藤丸さん」と答える。
愛のない世界、でもそれは本村がそう思っていただけだっただろうとい雨ところで終わる。この先どうなるのかは描かれていないけれど、何かの希望の兆しが見えるような終わり方に思えた。
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